2024年4月13日土曜日

マニュアルで、終わりではない。

暗黙知の形式知化

 私が医者になり始めたころから、ガイドラインという言葉をよく聞くようになりました。エビデンスに基づいた医療、Evidenced based medicineに基づいて、エビデンスに基づいた標準治療が確立されていきます。直感や経験ではだめだ、ということで、疾患ごとに、ガイドラインを多くの学会が発行していきました。現代では、ガイドラインに基づく標準治療に則って診療を行うことは必須と言えます。

 また、病院の機能評価、ということも多く経験しました。病院が確立した手順に則って診療を行うことが、医療事故などを防ぐ、というエビデンスもあり、病院のカルテ記載、処置の手順、トラブル発生時のフローなど、マニュアルをいくつも整備していきました。今や、マニュアルが置いてない病院などないでしょう。どんな手続きにもマニュアルがあります。

 一方で、マニュアルだらけで、マニュアルを探すのが大変、ということもよく発生していました。安全管理の回診では、マニュアルの場所を聞く、というのがありますね。場所を覚えておかなくてはなりませんが、どこか本末転倒というか、非効率だなと感じることがありました。

 さて、私が、診断士になって、勉強したことで、生産管理というのがありました。業務の改善が大事な狙いなのです。だれかだけができる技術を、だれでもできる技術に変えていくためには、業務を分析して、標準化して、マニュアル化していきます。そして、業務を効率化して、平準化することで、無駄の少ないフローが出来上がってきます。マニュアルは、教育の効果もあるので、とても大切です。

 マニュアルというのは、誰かの頭の中だけにある知識(暗黙知)ではなく、だれでも理解することができる知識(形式知)です。図や文章にすることで、飛躍的に情報はいきわたるようになります。本や、インターネット上にある知識というのは、ほとんど形式知ですね。

 診断士試験では、暗黙知を形式知化する、というのは、セオリーなので、ガイドラインやマニュアルを整備していくのは、大事なことなんだなと思います。ここは、間違いない。そして、いまやAIが形式知を学習して、Chat-GPTが簡単に答えを出してくれるようになりました。聞けばなんでも教えてくれます。

形式知の暗黙知化

 こうして、膨大に知識が共有されるようになりましたが、デメリットも生まれてきているといわれています。診断士試験で有名な、SECIモデルを提唱した野中郁二郎先生が、情報過多によるデメリットは、①過剰分析、②過剰計画、そして、③過剰コンプライアンスと言っています。

 文章にすると、物事の質的な、重大さが伝わりにくくなります。例えば、マニュアルを見せられても、どこを読めばよいのかが、わからない。というのは、よくあると思います。同じ知識でも、書いた人が一番よくわかっている。これは、書いた人には、暗黙知があって、実践があって、経験があって、塩梅を知っているということですね。

 マニュアルに書いてあることも、すぐにマニュアル通りにできるようにはなりません。マニュアルをもとに、実践を通して、その人なりの暗黙知の経験を蓄積していかなければなりません。そうした暗黙知がなく形式知だけで、物事に取り組もうとすると、情報に振り回されて、結果として、①過剰分析、②過剰計画、そして、③過剰コンプライアンスの問題がでてきますね。

 わかって気になってしまう。というのが、罠だと思います。形式知だけでは、わからないことがあります。形式知を得て、それを実践して、暗黙知を蓄積していく。これがあるかどうかで、物事を達成していく、実現していく。または、地に足のついた行動をとることができていくでしょう。もちろん、形式知がだめだと言っているわけではありません。暗黙知の形式知化、形式知の暗黙知化のサイクルを持っていること、サイクルがあるということを認識することが重要ということです。


まとめ

 これからの未来は、AIがもっと価値を持っていくでしょう。答えを知っているのは、AIかもしれません。でも、答えを実際に見に行くことができるのは、人間だと思います。そのためには、試行錯誤が必要で、無駄な作業も必要かもしれません。形式知も、暗黙知も、バランスの取れた形にしていくことが重要だと考えられます。

2024年1月2日火曜日

YUAD3周年

YUADは、3周年になりました。
おかげさまで、コンサルの件数は順調に伸びており、2023年も、無事に売り上げは成長しました。代表の中小企業診断士登録が済みまして、2024年は、さらに活動の幅を広げたいと思っております。

 さて、認知症の業界では、2023年の年末にビッグニュースがありました。エーザイ株式会社から、発症予防薬、抗アミロイド抗体のレケンビ(レカネマブ)が発売となりました。実際の使用にはハードルがありますが、ここから、認知症の診療は変化が出てくると考えられます。
 基本的に、認知症は、老化の過程で起こってくるある程度自然な現象だと感じることが多いですが、とはいえ、病気としての側面も無視はできません。認知症のために、マクロ的な経済的、人的な負担は大きいですし、ミクロ的にも、その人の尊厳を考えると、自分事として対策は必要であると考えてしまいます。発症の予防薬はこれからも、開発が進むでしょう。老いることの意味が、改めて見直されるときが来たと思います。自分ごととして考えたり、ご家族と、老いについてはなしあったりという、そして、人生をどうしていくか、という人生会議がますます重要になっていくと考えられます。

 最近の統計で、アメリカのZ世代が何を一番重視しているか、というアンケートの結果がでていました。圧倒的に、メンタルヘルスだそうです。医学部受験の試験にディベートがあったのですが、「病気があっても、人は幸せでいられるか?」というテーマがお題でした。私は、精神科医になりたいと思って受験していたので、メンタルへするの重要性を熱心に話した覚えがあります。現在、コロナや、インターネットなど、世の中が大きく変わっていくなかで、メンタルをよく保つことの重要性がこれからさらに注目されていくでしょう。一方で、コロナ禍や人材難で、メンタル不調を持っている人も、就労はしやすくなっているという統計もあります。ともに生きるという視点を、企業も持つように変わってきています。2024年は、障がい者総合支援法が改正されます。企業にとっても、合理的配慮という義務が課されるようになってきます。

 老年期も、若い世代でも、医療ビジネスは、共生と予防のバランスが大事になってくるなと思うわけです。さらに、倫理観と経済性というバランスも大事になります。ヘルスケア・メディカルというのは、こうした多くの事への配慮をこなしていく必要のある分野です。専門性を求められますし、常に勉強も求められます。診療報酬・介護報酬の改定や、新しい技術や、多くのヘルステックの出現など、外部環境の変化が著しいです。企業さんとの話し合いでは、多くの社長さんが、熱心に課題に取り組まれているのを目にします。岩盤規制の、難しい領域であると思いますが、その課題に向き合うことで、少しでも健康が維持され、Well-beingが保たれるというのは、大事な活動であると思っております。

 YUADは、2024年も引き続き、病院・地域・社会がより健康であるために伴走していきたいと考えております。

2023年6月13日火曜日

共生と予防

 認知症の専門医をして日々臨床をしております。

また、中小企業診断士試験合格者として、認知症予防などを考えるヘルステックなどの支援もしております。


認知症は、年齢が上がれば、誰でもなります。

70代で発症だと病気でしょうか。100歳だったら、むしろ普通でしょうか。

病気と捉えたら、治療が大事。いずれなる運命だと捉えたら、少しでも遅らせることが大事。

病気にならないに越したことはないので、予防は大事ですよね。

一方、これだけ認知症の人がいたら、その人達が共生できるように支援することも大事です。


ヘルステックが、メディカルで、勝負するのは、ハードルが高いので、ヘルスケアに行きがちとは思います。

私も多く支援していますし、認知症予防については、ずっとお話もできます。

でも、困っている人がいたら、なんとか、してあげられる病院というのも、大事な仕事とも思います。

どっちつかずで、中途半端ですが、どっちもできるのは、ありがたいことに思います。


共生と予防のバランスは、常に取らなくてはと思っております。

むしろ、病院外での活動の幅が増えてきて、よけいそう思うようになりました。

2022年9月13日火曜日

認知症の人とどう付き合うか

認知症の人との付き合い方については、相談されることがとても多いです。

分解すると、「認知症」の「人」ですから、認知症自体の特徴と、その人自体の特徴を理解することが必要です。

「認知症」については、一般的には、多くの情報を処理することが難しくなりますから、わかりやすく、大きな声で、ゆっくりと。ということが基本です。

まず、手を挙げて挨拶をすることが多いです。これは、手を挙げることで、耳の聞こえにくい人にも伝わりますし、注意をこちらに向けてもらうということができます。

生活のことや、将来のこと、病気のことなど、詳しく話し合わないといけないこともあるとは思います。

例えば、デイサービスに通ってくれない、というのは、よく聞く話ですが、

細かく話して、説得するよりも、実際に見学にいって、体験するほうが、早いこともあります。たくさん話すと、情報が多すぎて、わからなくなったり、言いくるめられていると、不安になったりします。難聴で、よく聞こえていない、ということもよくあります。

一度で、全部説明しようとせず、焦らないことが大事です。


さて、「人」の部分ですが、認知症になったからといって、それまでの性格がガラッと変わるわけではありません。もともと、内気な人は、認知症になって外交的になる、ということはあまりないでしょう。もともとの、家族との関係も重要です。家族だからこそ、話が通じなかったり、喧嘩になってしまう、ということももちろんあるでしょう。

無理に、家族だけで対応しようとせずに、他の親戚、ケアマネージャーさん、かかりつけの医師、認知症の専門医、など、別のだれかから、言ってもらうほうが、了解しやすい、ということもあるかと思います。また、伝える側が、本当にその人のためを思っている気持ちを持っていることも、コミュニケーションにとっては、重要です。

2022年4月2日土曜日

認知症についてのアスクドクターズでの連載①

2021年10月から、アスクドクターズで、認知症について解説する連載の機会をいただきました。無事に最終回を迎えられまして、ご声援ありがとうございました。医学雑誌に論文を投稿する場合と違う執筆経験は、新鮮でした。できるだけ平易に解りやすくと思い執筆しました。編集の越膳綾子さんには、感謝です。


連載は終わったのですが、書ききれなかったことや、雑感もあり、少し振り返りをしたいと思います。


私に与えられたテーマは、以下の6項目でした。

認知症とはなにか

認知症とどう付き合うか

認知症の困った症状との付き合い方は

認知症との共生と予防

認知症と睡眠との関係

認知症の看取りについて


それぞれ、私が、診療で患者さんやご家族にお話する時に、軸とする内容です。診療のときには、患者さん個別の状況がありますので、さらにプラスアルファのアドバイスを行ったり、支援を検討します。

この連載で、繰り返し書いたのは、「その人の人生」を、というワードです。

言うは易し、行うは難し。

診療の場面では、人生をじっくり聞くまでに至れないことが多いのです。ご家族から、もともとどういう人であったか、どういう生活、性格の人なのか、ということは聞きますが、人生のすべてを聞いていくことはできません。また、ご家族にしても、その人の人生のすべてを知っているわけではないでしょう。

だからこそ、臨床の中で、人生について触れることができた時に、貴重な瞬間だなと思います。認知症であっても、今までの人生があったということを再確認します。認知症の患者、ではなく、認知症の人、を見ているということ。これは、とても貴重な経験なんだと思わされます。

注目の投稿

マニュアルで、終わりではない。

暗黙知の形式知化  私が医者になり始めたころから、ガイドラインという言葉をよく聞くようになりました。エビデンスに基づいた医療、Evidenced based medicineに基づいて、エビデンスに基づいた標準治療が確立されていきます。直感や経験ではだめだ、ということで、疾患ごと...

人気の投稿