2021年2月23日火曜日

こころの病気について 神経症と精神病の間 人格の問題?

前回、神経症は心理学、精神病は精神医学が担当と書きました。

しかし、こころの病気というのは、複雑で精神病と神経症にきれいに分けられないこともあります。特に現実検討力は保たれているのに、観察自我が不十分というケースあることがわかってきました。神経症と精神病の間なので、このようなケースを境界例と呼ばれました。

この境界例は、精神分析的なアプローチが効果的な人もいれば、精神医学的なアプローチが効果的な人もいます。また、だいたい両方のアプローチを組み合わせることが必要になります。心理学の側からは、精神病へ範囲を広げようとしますし、精神医学の側からは神経症に範囲を広げようとします。それぞれのアプローチが生まれてきました。ここから、精神医学と心理学は一気に複雑に枝分かれしていきます。

カーンバーグという人が、人格構造理論というのを立てて、複雑な状況を整理しています。

こころの病気には、病態水準があって、「正常」「神経症」「境界」「精神病」の順に病理が深くなります。病態が下の状態では、それより上の病態の症状を呈することがあります。(例、統合失調症の患者さんが、不安を呈する。○ありうる)しかし、病態が上の状態では、それより下の病態の症状を呈することはありません。(例、不安障害の患者さんが、幻覚妄想を呈する。✕ありえない。)

境界のケースの治療は難しいことが多いのですが、技法もあります。こころの病気をこのように分類することで、どのようなアプローチが有効か、患者さんのなにを補ってあげるのかの、大まかな指針ができてきます。

こころの病気について 心理学と精神医学の違い 悩みと病気 神経症と精神病 カウンセリングは万能か?

こころについて、いろいろな考え方がありますが、心理学と、精神医学って何が違うの?とよく聞かれたりします。これも境界は曖昧で、クリアに分かれるものではないですが、一つの説明をします。

ジークムント・フロイトが、精神分析というのを創出するのですが、フロイトは心の病気を、精神病と神経症に分けました。

精神病というのは、幻覚や妄想を呈し、背景には、思考障害があります。思考障害は、現実検討力と観察自我のどちらも不十分な状態です。精神病の代表である統合失調症では、現実検討力(自分の外の刺激をただしく認識すること)や観察自我(自分の思考を客観的に見つめること)の2つが両方とも病的に不十分です。このため、幻覚や妄想といったことを知覚したり、着想してしまい、囚われてしまいます。

一方、神経症の代表である、不安障害などでは、現実検討力と観察自我は、ストレスにより多少おちていますが、幻覚や妄想を呈する程には障害されていません。フロイトは、神経症の患者さん達に対して、自由連想という方法で、語ってもらって、そこから心のありようを深く探っていくという方法をとりました。これがカウンセリングにつながっていきます。

精神病の患者さんに精神分析的なカウンセリングを使うと、悩みがより深まってしまうことがあり、デメリットが大きいです。いろいろ考えてもらうよりは、まずは、病気の説明や休養、薬物療法などを優先させて、ある程度現実検討力と観察自我が回復してきたら、悩み事にフォーカスしていくという順番を取ることが多いです。(患者さんごとに状況は違うので、個別に応用は必要です。)

フロイトは、心理学の土台を神経症においたという点で大事なことをしたと思います。ここから、大雑把に神経症は心理学、精神病は精神医学の担当になりました。


2021年2月4日木曜日

脳の老化について 脳の老化 アミロイドの蓄積 脳の萎縮 アンチエイジング

高齢になれば、だれでも、物忘れは出てきます。なれていないこと、しばらくぶりの人の名前や顔が思い浮かばないことは、必ずしも異常とは言えません。

一般的に、高齢になると、意欲の低下、感情の起伏、集中力、理解力の低下などがある程度出てくることが普通です。さらに、仕事や役割が少なくなるために、外出の頻度、活動量の低下がみられます。高血圧、脂質異常症といった生活習慣病や、関節痛などの整形外科的な疾患も含めて、いくつかの持病があることも普通に見られます。

高齢者は、新しいことを始める、覚える、というようなことは、難しいところがありますが、長年の経験から活きた知恵を持っているということが多くあります。高齢者の方が、その発する「言葉」に深みがある、というのも、よく経験することですが、長年の人生を背景としてあるから、というのもあります。若い世代への知識、知恵、経験の伝達というのは、大事な役割ですし、高齢者の方が話す場があることや、話を聞こうという機会をもつことは、大事なことです。

高齢期にみられるこのような生理的変化の背景として、脳神経にはどのような変化が起きているのでしょうか。老化した脳は、正常の脳と比べて、びまん性の軽度の脳萎縮がみられ、顕微鏡で詳しく見ると、びまん性老人斑と言われる変化がみられます。これは、アミロイドと言われるタンパク質から構成されている、老化の変化です。老人斑は、アルツハイマー型認知症の脳変化としても、出現してくるものです。高齢者の脳は、萎縮、神経細胞の脱落などを背景として、脳の働きそのものが、(生理的に)若干落ちているということがあります。

アミロイドは、毎日起きているときに脳内に増えて、睡眠の後に、量が減ることが知られています。最近の報告では、脳内のリンパ系といわれる、グリンパティックシステムと言われる機序によって、睡眠中に脳内の掃除が行われている可能性が示唆されています。グリンパティックシステムの詳細や、アミロイドの出現の原因は、まだ詳しくはわかっていませんが、深い睡眠を取ることで、脳を休ませて、老廃物を除去するということができます。睡眠は、脳の老化の予防、認知症の予防にとっても、とても大事なことではないかと考えられています。深い睡眠を取るといっても、闇雲に寝ればいい、ということではありません。睡眠覚醒のリズム、日中の頭や体をつかった活動、食事などが整った上で、適切な量(7.5時間前後)の睡眠を取ることが大事です。睡眠時間は、短すぎても、長すぎても、よくありません。


注目の投稿

マニュアルで、終わりではない。

暗黙知の形式知化  私が医者になり始めたころから、ガイドラインという言葉をよく聞くようになりました。エビデンスに基づいた医療、Evidenced based medicineに基づいて、エビデンスに基づいた標準治療が確立されていきます。直感や経験ではだめだ、ということで、疾患ごと...

人気の投稿