2024年11月11日月曜日

アルコールと認知症について

アルコールと認知症について、臨床現場では、注目する必要のあることが多くなってきました。

アルコール性の認知症については、あまりわかっていないことも多く、講演依頼がありまして、何度かお話する機会がありました。今回は、アルコールと認知症についての、要点をまとめておきます。


1. アルコールと認知症の関係

アルコールが認知症に与える影響については、近年多くの研究が進められています。アルコールの中枢神経に対する作用を中心に、依存症やリスク、認知症発症のメカニズムについて説明します。アルコール依存症患者の高齢化が進む中で、認知症との関係性が注目されています。

2. アルコールの中枢神経への作用

アルコールが体内に入ると、中枢神経に作用し、その影響は体質や飲酒量により異なります。体重60kgの人が標準的な飲酒量を摂取した場合、アルコールが体内に3~4時間留まるとされます。過剰な飲酒は神経系のバランスを崩し、GABA受容体やグルタミン酸受容体の調節に影響を及ぼすことが分かっています。

3. アルコール離脱症状と治療

アルコール依存症からの離脱には、せん妄や痙攣発作などの症状が見られます。治療には、ベンゾジアゼピンなどの薬物療法が用いられますが、長期間の使用は避けられるべきです。また、治療は症状の進行度に合わせて行われ、栄養管理が重要とされています。

4. ウェルニッケ・コルサコフ症候群

ビタミンB1(チアミン)の欠乏により引き起こされるウェルニッケ脳症と、それに続くコルサコフ症候群は、重篤な認知機能障害を引き起こします。MRI検査は診断に有用ですが、臨床所見が最も重要とされます。この症候群は長期的な飲酒により発症リスクが高まり、意識障害や運動障害、健忘症が特徴です。

5. アルコール依存症と認知機能障害

アルコール依存症患者の約50~75%が何らかの認知機能障害を抱えているとされています。特に高齢者のアルコール依存症では、脳の灰白質や白質の減少が確認され、加齢に伴う脳の脆弱性が増します。慢性的なアルコール摂取は、脳の前頭葉や海馬などの重要な部位に損傷を与えることが分かっています。

6. アルコールと認知症リスクの関係

長期的な飲酒は、認知症発症リスクの増加に関連しています。Hisayama研究では、中年期から晩年にかけての持続的な喫煙と飲酒が認知症の重要なリスク因子であるとされています。また、特に前頭葉や側頭葉、扁桃体における灰白質の減少が認知機能低下と関連しています。

7. 認知症予防とアルコール摂取のガイドライン

適度な飲酒は、一定の認知症予防効果があるとされていますが、過度な摂取は認知機能低下を加速させます。厚生労働省による飲酒ガイドラインに従い、飲酒量を管理することが推奨されます。また、MIND食などの栄養管理も認知機能維持に効果があるとされています。

8. まとめ

アルコールは中枢神経に直接作用し、長期的な飲酒は認知機能障害のリスクを高めます。特に高齢者においては、認知症のリスク因子として注意が必要です。適度な飲酒と健康的なライフスタイルを維持し、アルコール性認知症の予防に努めることが重要です。

2024年4月13日土曜日

マニュアルで、終わりではない。

暗黙知の形式知化

 私が医者になり始めたころから、ガイドラインという言葉をよく聞くようになりました。エビデンスに基づいた医療、Evidenced based medicineに基づいて、エビデンスに基づいた標準治療が確立されていきます。直感や経験ではだめだ、ということで、疾患ごとに、ガイドラインを多くの学会が発行していきました。現代では、ガイドラインに基づく標準治療に則って診療を行うことは必須と言えます。

 また、病院の機能評価、ということも多く経験しました。病院が確立した手順に則って診療を行うことが、医療事故などを防ぐ、というエビデンスもあり、病院のカルテ記載、処置の手順、トラブル発生時のフローなど、マニュアルをいくつも整備していきました。今や、マニュアルが置いてない病院などないでしょう。どんな手続きにもマニュアルがあります。

 一方で、マニュアルだらけで、マニュアルを探すのが大変、ということもよく発生していました。安全管理の回診では、マニュアルの場所を聞く、というのがありますね。場所を覚えておかなくてはなりませんが、どこか本末転倒というか、非効率だなと感じることがありました。

 さて、私が、診断士になって、勉強したことで、生産管理というのがありました。業務の改善が大事な狙いなのです。だれかだけができる技術を、だれでもできる技術に変えていくためには、業務を分析して、標準化して、マニュアル化していきます。そして、業務を効率化して、平準化することで、無駄の少ないフローが出来上がってきます。マニュアルは、教育の効果もあるので、とても大切です。

 マニュアルというのは、誰かの頭の中だけにある知識(暗黙知)ではなく、だれでも理解することができる知識(形式知)です。図や文章にすることで、飛躍的に情報はいきわたるようになります。本や、インターネット上にある知識というのは、ほとんど形式知ですね。

 診断士試験では、暗黙知を形式知化する、というのは、セオリーなので、ガイドラインやマニュアルを整備していくのは、大事なことなんだなと思います。ここは、間違いない。そして、いまやAIが形式知を学習して、Chat-GPTが簡単に答えを出してくれるようになりました。聞けばなんでも教えてくれます。

形式知の暗黙知化

 こうして、膨大に知識が共有されるようになりましたが、デメリットも生まれてきているといわれています。診断士試験で有名な、SECIモデルを提唱した野中郁二郎先生が、情報過多によるデメリットは、①過剰分析、②過剰計画、そして、③過剰コンプライアンスと言っています。

 文章にすると、物事の質的な、重大さが伝わりにくくなります。例えば、マニュアルを見せられても、どこを読めばよいのかが、わからない。というのは、よくあると思います。同じ知識でも、書いた人が一番よくわかっている。これは、書いた人には、暗黙知があって、実践があって、経験があって、塩梅を知っているということですね。

 マニュアルに書いてあることも、すぐにマニュアル通りにできるようにはなりません。マニュアルをもとに、実践を通して、その人なりの暗黙知の経験を蓄積していかなければなりません。そうした暗黙知がなく形式知だけで、物事に取り組もうとすると、情報に振り回されて、結果として、①過剰分析、②過剰計画、そして、③過剰コンプライアンスの問題がでてきますね。

 わかって気になってしまう。というのが、罠だと思います。形式知だけでは、わからないことがあります。形式知を得て、それを実践して、暗黙知を蓄積していく。これがあるかどうかで、物事を達成していく、実現していく。または、地に足のついた行動をとることができていくでしょう。もちろん、形式知がだめだと言っているわけではありません。暗黙知の形式知化、形式知の暗黙知化のサイクルを持っていること、サイクルがあるということを認識することが重要ということです。


まとめ

 これからの未来は、AIがもっと価値を持っていくでしょう。答えを知っているのは、AIかもしれません。でも、答えを実際に見に行くことができるのは、人間だと思います。そのためには、試行錯誤が必要で、無駄な作業も必要かもしれません。形式知も、暗黙知も、バランスの取れた形にしていくことが重要だと考えられます。

2024年1月2日火曜日

YUAD3周年

YUADは、3周年になりました。
おかげさまで、コンサルの件数は順調に伸びており、2023年も、無事に売り上げは成長しました。代表の中小企業診断士登録が済みまして、2024年は、さらに活動の幅を広げたいと思っております。

 さて、認知症の業界では、2023年の年末にビッグニュースがありました。エーザイ株式会社から、発症予防薬、抗アミロイド抗体のレケンビ(レカネマブ)が発売となりました。実際の使用にはハードルがありますが、ここから、認知症の診療は変化が出てくると考えられます。
 基本的に、認知症は、老化の過程で起こってくるある程度自然な現象だと感じることが多いですが、とはいえ、病気としての側面も無視はできません。認知症のために、マクロ的な経済的、人的な負担は大きいですし、ミクロ的にも、その人の尊厳を考えると、自分事として対策は必要であると考えてしまいます。発症の予防薬はこれからも、開発が進むでしょう。老いることの意味が、改めて見直されるときが来たと思います。自分ごととして考えたり、ご家族と、老いについてはなしあったりという、そして、人生をどうしていくか、という人生会議がますます重要になっていくと考えられます。

 最近の統計で、アメリカのZ世代が何を一番重視しているか、というアンケートの結果がでていました。圧倒的に、メンタルヘルスだそうです。医学部受験の試験にディベートがあったのですが、「病気があっても、人は幸せでいられるか?」というテーマがお題でした。私は、精神科医になりたいと思って受験していたので、メンタルへするの重要性を熱心に話した覚えがあります。現在、コロナや、インターネットなど、世の中が大きく変わっていくなかで、メンタルをよく保つことの重要性がこれからさらに注目されていくでしょう。一方で、コロナ禍や人材難で、メンタル不調を持っている人も、就労はしやすくなっているという統計もあります。ともに生きるという視点を、企業も持つように変わってきています。2024年は、障がい者総合支援法が改正されます。企業にとっても、合理的配慮という義務が課されるようになってきます。

 老年期も、若い世代でも、医療ビジネスは、共生と予防のバランスが大事になってくるなと思うわけです。さらに、倫理観と経済性というバランスも大事になります。ヘルスケア・メディカルというのは、こうした多くの事への配慮をこなしていく必要のある分野です。専門性を求められますし、常に勉強も求められます。診療報酬・介護報酬の改定や、新しい技術や、多くのヘルステックの出現など、外部環境の変化が著しいです。企業さんとの話し合いでは、多くの社長さんが、熱心に課題に取り組まれているのを目にします。岩盤規制の、難しい領域であると思いますが、その課題に向き合うことで、少しでも健康が維持され、Well-beingが保たれるというのは、大事な活動であると思っております。

 YUADは、2024年も引き続き、病院・地域・社会がより健康であるために伴走していきたいと考えております。

2023年6月13日火曜日

共生と予防

 認知症の専門医をして日々臨床をしております。

また、中小企業診断士試験合格者として、認知症予防などを考えるヘルステックなどの支援もしております。


認知症は、年齢が上がれば、誰でもなります。

70代で発症だと病気でしょうか。100歳だったら、むしろ普通でしょうか。

病気と捉えたら、治療が大事。いずれなる運命だと捉えたら、少しでも遅らせることが大事。

病気にならないに越したことはないので、予防は大事ですよね。

一方、これだけ認知症の人がいたら、その人達が共生できるように支援することも大事です。


ヘルステックが、メディカルで、勝負するのは、ハードルが高いので、ヘルスケアに行きがちとは思います。

私も多く支援していますし、認知症予防については、ずっとお話もできます。

でも、困っている人がいたら、なんとか、してあげられる病院というのも、大事な仕事とも思います。

どっちつかずで、中途半端ですが、どっちもできるのは、ありがたいことに思います。


共生と予防のバランスは、常に取らなくてはと思っております。

むしろ、病院外での活動の幅が増えてきて、よけいそう思うようになりました。

2022年9月13日火曜日

認知症の人とどう付き合うか

認知症の人との付き合い方については、相談されることがとても多いです。

分解すると、「認知症」の「人」ですから、認知症自体の特徴と、その人自体の特徴を理解することが必要です。

「認知症」については、一般的には、多くの情報を処理することが難しくなりますから、わかりやすく、大きな声で、ゆっくりと。ということが基本です。

まず、手を挙げて挨拶をすることが多いです。これは、手を挙げることで、耳の聞こえにくい人にも伝わりますし、注意をこちらに向けてもらうということができます。

生活のことや、将来のこと、病気のことなど、詳しく話し合わないといけないこともあるとは思います。

例えば、デイサービスに通ってくれない、というのは、よく聞く話ですが、

細かく話して、説得するよりも、実際に見学にいって、体験するほうが、早いこともあります。たくさん話すと、情報が多すぎて、わからなくなったり、言いくるめられていると、不安になったりします。難聴で、よく聞こえていない、ということもよくあります。

一度で、全部説明しようとせず、焦らないことが大事です。


さて、「人」の部分ですが、認知症になったからといって、それまでの性格がガラッと変わるわけではありません。もともと、内気な人は、認知症になって外交的になる、ということはあまりないでしょう。もともとの、家族との関係も重要です。家族だからこそ、話が通じなかったり、喧嘩になってしまう、ということももちろんあるでしょう。

無理に、家族だけで対応しようとせずに、他の親戚、ケアマネージャーさん、かかりつけの医師、認知症の専門医、など、別のだれかから、言ってもらうほうが、了解しやすい、ということもあるかと思います。また、伝える側が、本当にその人のためを思っている気持ちを持っていることも、コミュニケーションにとっては、重要です。

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