2022年9月13日火曜日

認知症の人とどう付き合うか

認知症の人との付き合い方については、相談されることがとても多いです。

分解すると、「認知症」の「人」ですから、認知症自体の特徴と、その人自体の特徴を理解することが必要です。

「認知症」については、一般的には、多くの情報を処理することが難しくなりますから、わかりやすく、大きな声で、ゆっくりと。ということが基本です。

まず、手を挙げて挨拶をすることが多いです。これは、手を挙げることで、耳の聞こえにくい人にも伝わりますし、注意をこちらに向けてもらうということができます。

生活のことや、将来のこと、病気のことなど、詳しく話し合わないといけないこともあるとは思います。

例えば、デイサービスに通ってくれない、というのは、よく聞く話ですが、

細かく話して、説得するよりも、実際に見学にいって、体験するほうが、早いこともあります。たくさん話すと、情報が多すぎて、わからなくなったり、言いくるめられていると、不安になったりします。難聴で、よく聞こえていない、ということもよくあります。

一度で、全部説明しようとせず、焦らないことが大事です。


さて、「人」の部分ですが、認知症になったからといって、それまでの性格がガラッと変わるわけではありません。もともと、内気な人は、認知症になって外交的になる、ということはあまりないでしょう。もともとの、家族との関係も重要です。家族だからこそ、話が通じなかったり、喧嘩になってしまう、ということももちろんあるでしょう。

無理に、家族だけで対応しようとせずに、他の親戚、ケアマネージャーさん、かかりつけの医師、認知症の専門医、など、別のだれかから、言ってもらうほうが、了解しやすい、ということもあるかと思います。また、伝える側が、本当にその人のためを思っている気持ちを持っていることも、コミュニケーションにとっては、重要です。

2022年4月2日土曜日

認知症についてのアスクドクターズでの連載①

2021年10月から、アスクドクターズで、認知症について解説する連載の機会をいただきました。無事に最終回を迎えられまして、ご声援ありがとうございました。医学雑誌に論文を投稿する場合と違う執筆経験は、新鮮でした。できるだけ平易に解りやすくと思い執筆しました。編集の越膳綾子さんには、感謝です。


連載は終わったのですが、書ききれなかったことや、雑感もあり、少し振り返りをしたいと思います。


私に与えられたテーマは、以下の6項目でした。

認知症とはなにか

認知症とどう付き合うか

認知症の困った症状との付き合い方は

認知症との共生と予防

認知症と睡眠との関係

認知症の看取りについて


それぞれ、私が、診療で患者さんやご家族にお話する時に、軸とする内容です。診療のときには、患者さん個別の状況がありますので、さらにプラスアルファのアドバイスを行ったり、支援を検討します。

この連載で、繰り返し書いたのは、「その人の人生」を、というワードです。

言うは易し、行うは難し。

診療の場面では、人生をじっくり聞くまでに至れないことが多いのです。ご家族から、もともとどういう人であったか、どういう生活、性格の人なのか、ということは聞きますが、人生のすべてを聞いていくことはできません。また、ご家族にしても、その人の人生のすべてを知っているわけではないでしょう。

だからこそ、臨床の中で、人生について触れることができた時に、貴重な瞬間だなと思います。認知症であっても、今までの人生があったということを再確認します。認知症の患者、ではなく、認知症の人、を見ているということ。これは、とても貴重な経験なんだと思わされます。

2021年12月16日木曜日

YUAD一周年

2021年12月16日で、YUADは、一周年となりました。

この1年、病院さん、スタートアップさん、その他企業の新規事業開発の方たちと、たくさんお話をさせていただきました。また、連載もさせていただいています。ありがとうございました。

アドバイザーのお仕事をしての感想としては、精神医学の勉強を、別の角度でもう一度しているような感覚です。ニーズを聞いて、一緒に問題点をあきらかにしていくのは、まさにカウンセリングの作業と共通しています。また、心理的に、信頼感、安心感がないと、なかなかよいセッションにならないことも、同じだなと思いました。

もちろん、精神医学の知識、経営学の知識など、専門知識として覚えておくべきこともたくさんありますが、何より私が今まで培ってきた患者さんとの対話、という点が最も大事であると感じます。

精神科研修医のときに、指導の先生から、「処方に逃げてはだめだよ。セッションは一期一会だと思って、次会えるという保証も無いところで、どれだけの出会いになるかだよ。」と指導いただきましたが、重なる部分あるなと感じています。難しいお話もありましたが、一つ一つの機会に取り組みながら、その都度発見があるなと感じておりました。

精神医学は、病気を扱うので、マイナスを、できるだけゼロにしていく(ノーマライズしていく)作業ですが、YUADは、さらにプラスにしていく作業だと思っています。しかし、どちらにしても、人の支援ということでは、大きくは変わりないのかなと感じています。

これからも、引き続き、「あなたの」お役に立てればと思っております。あなたのアドバイザーで、YUADです。どうぞ、よろしくお願いいたします。

2021年10月11日月曜日

双極性障害について I型とII型 軽躁状態 うつ状態 気分の波 病気との付き合い方 周りの人にも見てもらう

躁うつ病という病気があります。気分が落ち込む、意欲が低下する という抑うつ症状と気分が高ぶり、意欲が高まる という躁症状を繰り返す病気です。躁とうつという2つの極を行ったり来たりするので、双極性障害とも言います。

気持ちが落ち込んでいるのに、意欲はあって焦って空回りする躁うつが混ざった混合状態という状態もあります。

躁状態がかなりひどいと、誇大妄想といって、万能感に支配された状態になったりしますが、そこまでのひどい躁状態にはならずに、軽躁といわれる状態を呈する病気を双極性障害Ⅱ型といったりします。何度もうつを繰り替えす人の中に、実は双極性障害Ⅱ型であったという人もいると思います。

躁うつ病のひとの抱える大きな心の問題は、「否認」であるといわれています。大丈夫じゃないのに、大丈夫と、否認する。問題があるのに、問題を否認して向き合わない。そして、無理をする。眠いのに眠くない。お腹が空くはずなのにすかない。疲れていない。そんな状態が長く続くと、どこかで否認しきれなくなったところで、一気に落ち込みます。休んだあとに、病気で調子悪かったことを否認して、また、急いで復職しようとする。焦る。そして空回り。これの連鎖です。だんだんと、悪化していきます。

双極性障害の治療では、気分安定薬という薬を使います。うつ状態に対してつかう抗うつ薬は根本解決にはならないですし、むしろ気分の波を波立たせたり、躁状態を増強してしまうということがあるので、抗うつ薬の仕様は推奨されないことが多いです。(つかうこともありますが、慎重に使用されるべきです。)

躁うつ混合状態では、落ち込んでるのに焦る、となってしまい、このときに判断力が鈍って、この人生はだめだ、と、人生を否認して、自殺に至ることもあります。混合状態のときは、なおさら休養が必要です。死ぬことを考えるのは病気の症状です。人生がだめだ、価値がないなんてことはないです。物の見方が、狭くなってるだけです。病気が落ち着けば、かならず他の見方ができます。つらい状態のときは、どうしても、視野が狭くなりますが、そういうときこそ、病気を受け入れて、休養と薬物療法、医師や医療職との会話が大事になります。

双極性障害は、治るというよりも、気分安定薬で、すこしムードを押さえつつ、付き合っていくタイプの病気です。無理をして気分をあげすぎないように気をつけ、下がったときには、じっと休んで回復を待つことが大事です。ペースのコントロールが大事です。

しかし、どうしても、患者さんは、気分が調子良いとき、いつもの調子!って時のパフォーマンスを求めますが、実は、その状態自体が、軽躁状態だったりします。そこを目指そうとすると、かならず無理が来ます。まずは、一番良いときの、6割りくらいが、ちょうど良いと考えて、それくらいで続けられるペースをつかむことが必要です。

ペース配分は、自分ではわからなくなりがちです。眠くならない、お腹すかない、疲れない、となってるときは、もうアウトかもしれません。周りのひとに、自分の病気のことを伝えて、頑張りすぎてるよ、疲れてるはずだよ、もう寝ないとダメだよ、ごはん食べないとだめだよ、と言ってもらわないと、本人はすべて否認するので、どこまでも頑張りすぎてしまうことがあります。

周りのひとだけでなく、医師からも、そろそろ辛くなってきているのでは?、とか、まだ休養が必要で、あせってはいけませんよ、などの、コメントを適宜もらうことが大事です。病気との付き合いができてくれば、きちんと学校や仕事もできます。

薬を使い始めたときに、眠化を感じるという方が多いですが、それは、本当に疲れてるからではないでしょうか。薬をつかって元気になるというよりも、単純に疲れていて、その疲れをそのまま感じることができる。当たり前の感覚を当たり前に感じるということが、治療の第一歩です。

2021年9月25日土曜日

YUADの論文の内容説明 ペランパネル 認知症とてんかん Treatable Dementia 重度の認知症への効果を認めた症例

 新しい論文が受理されたので、簡単に解説をします。

A Severe Dementia Case in End of Life Care with Psychiatric Symptoms Treated by Perampanel

Journal of Epilepsy Research 2021; 11(1): 93-95.


この論文は、ペランパネルというてんかんの薬が、重度アルツハイマー型認知症患者さんのミオクローヌスというてんかん発作や、大声多動といった精神症状に効果があり、かつ、予後も良くした可能性があることを報告した症例報告です。


高齢者は、てんかんの頻度が比較的高いと言われています。

てんかんのせいで認知症みたいになる人や、

認知症の合併症としててんかんをがっぺいしてくる人がいます。

この症例は、重度のアルツハイマー型認知症患者がてんかんを合併して、非常に落ち着かない状態になっていました。いろんな薬をつかったけれど改善が乏しく、試行錯誤の末、ペランパネルを使ったところ、症状が落ち着いたという症例です。

ペランパネルは、AMPA型グルタミン酸受容体の阻害薬という新しい抗てんかん薬です。

アルツハイマー型認知症の患者さんの脳ではグルタミン酸が増えていると言われており、アルツハイマーの治療薬であるメマンチンは、NMDA型のグルタミン酸受容体の阻害作用を有し、進行抑制の効果があると言われています。ペランパネルは、AMPA型で、少し違いますが、グルタミン酸が多いと考えられますので、効果があったのは、そのせいかと考えられます。

認知症患者さんの問題行動についての治療エビデンスは、少ないですし、認知症患者さんに安易に向精神薬をつかうと、予後を悪くするとも言われています。このケースは、治療がうまく行って、かつ予後も良かったということで、非常に示唆に富む症例であったと考えられ、英語の論文として、海外の雑誌に受理されました。

注目の投稿

講演サマリー:「眠りが支える脳の健康 ― 認知症と神経免疫の観点から ―」

 2025年9月2日、旭川で「眠りが支える脳の健康 ― 認知症と神経免疫の観点から ―」と題した講演を行いました。ここではその要点を簡潔に振り返ります。 睡眠と脳の健康 睡眠は単なる休養ではなく、脳の可塑性や老廃物の排出(グリンパティックシステム)を支える重要な営みです。特に...

人気の投稿