【学会報告】自己免疫性脳炎と精神症状に対する精神科的アプローチ
2025年6月、神戸で開催された「第121回日本精神神経学会学術総会」にて、「自己免疫性脳炎・免疫関連疾患の精神症状に対する精神科的臨床」というテーマで登壇しました。今回は、その内容を少しご紹介いたします。
■ 免疫と精神の関係性:見逃されがちなリンク
近年、「自己免疫性脳炎」や「自己免疫性精神病」というキーワードが、精神科領域でも注目されています。これらは、体内の免疫システムが誤って自身の脳神経を攻撃することで発症し、幻覚や妄想、認知機能の低下など、さまざまな精神症状を引き起こします。
これまでの研究では、特に「抗NMDA受容体抗体」や「抗グルタミン酸受容体抗体」が精神症状に関連していることが明らかになってきました。また、甲状腺自己抗体を持つ精神疾患患者では、これらの抗体が比較的高頻度で見つかることも分かっています。
■ 症例から学ぶ:多様な経過と治療のヒント
これまでに報告されている症例の中には、30代から70代まで、発症のタイミングや症状の出方、回復までの道のりが大きく異なる方が多数いらっしゃいます。
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1ヶ月で寛解に至った症例
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数年にわたる入院治療と在宅復帰を経た症例
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回復過程で不安や精神症状、認知機能の障害を呈した症例
これらの症例から見えてくるのは、病態の背後には「免疫」だけでなく、「心理社会的な要因」や「その後の生活背景」が深く影響しているということです。
■ 精神科の役割:診断と治療をつなぐ“橋渡し役”
自己免疫性の精神疾患では、脳神経内科と精神科の連携が不可欠です。特に精神科では、
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疾患の素因(素質)=遺伝的背景、発達歴、心理的ストレスなど
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増悪因子=感染症、生活上の変化など
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永続化因子=治療機会の逸失、家族関係の変化、職業生活の支障など
といった「背景因子」を丁寧に評価し、治療に活かす視点が求められます。
また、すべての抗体陽性例に免疫療法が適応となるわけではなく、精神医学的なアプローチと併用することが重要です。
■ 最後に:医療の分野を越えて、協働するということ
本シンポジウムを通して強く感じたのは、「免疫」と「精神」、そして「社会」とのつながりを多面的に捉える視点の重要性です。多くの背景因子を理解しながら、多職種で支援していく姿勢が、患者さんの真の回復につながると感じています。