2025年7月17日木曜日

「社会課題としての認知症への多面的な取り組み」 講演会概要

 【特集】認知症を社会で支える:多面的な取り組みの現在地

日本では、高齢化の進行に伴い、認知症と共に生きる人の数が増えています。今や認知症は、医療だけでなく、介護、教育、企業活動、そして社会全体で考えるべき「共生と予防のテーマ」です。


■ 予防できる認知症、支え合う認知症

近年の国際的な研究では、認知症の約45%が予防可能であると示唆されています(Lancet 2024)。教育や運動、社会的交流、睡眠、生活習慣病の管理などが重要とされており、「早すぎる予防はない」ことが明らかになっています。

また、医療では薬物療法(アセチルコリンエステラーゼ阻害薬やメマンチン)に加え、抗アミロイド抗体による新しい治療法の登場も注目を集めています。


■ 地域で支える認知症ケア:横浜舞岡病院の実践

横浜舞岡病院は、横浜市で最初に認定された認知症疾患医療センターのひとつとして、医療・福祉・地域連携のハブとして活動を展開しています。

認知症サポート医講習会

地域への普及啓発(講師派遣・市民講座)

若年性認知症カフェの運営

認知症緩和ケア評価スケール(EOLD-J)の研究と活用

歩行解析(Moffバンド®使用)による移動能力低下の早期発見

抗アミロイド抗体薬に対応したフォローアップ施設の整備


■ 人生会議とエンドオブライフ・ケア

認知症は進行性の疾患であるため、本人の意思が伝えられるうちに治療やケアの選択を話し合っておく「人生会議(ACP)」が重視されています。


■ 企業と連携した予防研究:J-MINT PRIME Kanagawa

国の大型研究「J-MINT」プロジェクトの一環として、横浜市の若葉台団地では、住民を対象にした認知症予防の実証実験が進行中です。Fitbitを用いた睡眠と運動量の解析が行われています。


■ 認知症と共に生きる社会のために

認知症への取り組みは、医療や介護だけでなく、予防・教育・研究・産業・地域社会まで多岐にわたります。


認知症が「特別なこと」ではなく、誰もが関わる「ふつうのこと」として支え合える社会づくりに向けて、今後も多角的な取り組みが求められます。

2025年7月10日木曜日

第121回日本精神神経学会学術総会で、シンポジウム「自己免疫と精神医学~基礎研究から実臨床まで~」にて、「自己免疫脳炎・免疫関連疾患の精神症状に対する精神科的臨床 」を講演しました

 【学会報告】自己免疫性脳炎と精神症状に対する精神科的アプローチ

2025年6月、神戸で開催された「第121回日本精神神経学会学術総会」にて、「自己免疫性脳炎・免疫関連疾患の精神症状に対する精神科的臨床」というテーマで登壇しました。今回は、その内容を少しご紹介いたします。

■ 免疫と精神の関係性:見逃されがちなリンク

近年、「自己免疫性脳炎」や「自己免疫性精神病」というキーワードが、精神科領域でも注目されています。これらは、体内の免疫システムが誤って自身の脳神経を攻撃することで発症し、幻覚や妄想、認知機能の低下など、さまざまな精神症状を引き起こします。

これまでの研究では、特に「抗NMDA受容体抗体」や「抗グルタミン酸受容体抗体」が精神症状に関連していることが明らかになってきました。また、甲状腺自己抗体を持つ精神疾患患者では、これらの抗体が比較的高頻度で見つかることも分かっています。

■ 症例から学ぶ:多様な経過と治療のヒント

これまでに報告されている症例の中には、30代から70代まで、発症のタイミングや症状の出方、回復までの道のりが大きく異なる方が多数いらっしゃいます。

  • 1ヶ月で寛解に至った症例

  • 数年にわたる入院治療と在宅復帰を経た症例

  • 回復過程で不安や精神症状、認知機能の障害を呈した症例

これらの症例から見えてくるのは、病態の背後には「免疫」だけでなく、「心理社会的な要因」や「その後の生活背景」が深く影響しているということです。

■ 精神科の役割:診断と治療をつなぐ“橋渡し役”

自己免疫性の精神疾患では、脳神経内科と精神科の連携が不可欠です。特に精神科では、

  • 疾患の素因(素質)=遺伝的背景、発達歴、心理的ストレスなど

  • 増悪因子=感染症、生活上の変化など

  • 永続化因子=治療機会の逸失、家族関係の変化、職業生活の支障など

といった「背景因子」を丁寧に評価し、治療に活かす視点が求められます。

また、すべての抗体陽性例に免疫療法が適応となるわけではなく、精神医学的なアプローチと併用することが重要です。

■ 最後に:医療の分野を越えて、協働するということ

本シンポジウムを通して強く感じたのは、「免疫」と「精神」、そして「社会」とのつながりを多面的に捉える視点の重要性です。多くの背景因子を理解しながら、多職種で支援していく姿勢が、患者さんの真の回復につながると感じています。

2025年6月12日木曜日

抑うつ症状を呈する認知症患者の治療経験と考察を講演しました

 4月25日

kowa web seminerにて講演しました。

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主な内容


1. 認知症とうつ病の関連


認知症患者における大うつ病性障害の診断率は約15%前後。


認知症の進行度によるうつ病発症率に大きな差はないが、進行により評価は困難に。



2. アルコールとうつ病の合併


アルコール使用障害者におけるうつ病有病率は約41.6%。


多くは「うつ病後発型(アルコールが引き金)」。


女性は「うつ病先行型」が多い。



3. 症例報告(詳細は控えます)


4. アルコールによる神経伝達物質の影響


セロトニン・ドーパミン・ノルアドレナリンの枯渇 → 抑うつ症状。


HPA軸の過剰活性化 → コルチゾール増加 → 海馬萎縮 → うつ悪化。


GABAとグルタミン酸のアンバランス → 離脱時の不安・抑うつ。


アセチルコリン受容体の変化 → 断酒後の過活動 → 抑うつ悪化の可能性。



5. アルコール性認知症の特徴


前頭葉・海馬・小脳が障害され、記憶や意欲、感情制御に影響。


ウェルニッケ・コルサコフ症候群などと関連。


社会的要因(孤立、家庭問題など)も抑うつを増悪。



6. アセチルコリン仮説


一般的なうつ病ではアセチルコリン過活動が原因とされることがある。


しかしアルコール性認知症では逆にアセチルコリンが低下 → 抑うつ・無気力が顕著。



7. 治療的示唆


認知症のうつには**アセチルコリンエステラーゼ阻害薬(例:アリドネ)**が有効な場合がある。


SSRIはアパシーを悪化させる可能性があるため注意。


症例ごとに柔軟な薬物選択が必要。



2025年6月3日火曜日

神奈川県レキサルティ適応追加記念講演会

 認知症の行動・心理症状に対するブレクスピプラゾール(レキサルティ)の使用方法について、ディスカッションしました。


■ 背景・目的


アルツハイマー型認知症(AD)に伴うアジテーション(焦燥感、易刺激性、興奮)に対し、ブレクスピプラゾールの適応が追加された。有効性と安全性、及び使用に関する印象をディスカッションした。


■ 有効性


無作為化二重盲検試験(BRIDGE試験)や14週の継続試験において、CGI-SスコアおよびCMAIスコアの有意な改善が確認された。


効果は比較的ゆっくりと発現し、長期に持続する印象がある。


■ 安全性と注意点


錐体外路症状(歩行障害、筋固縮、振戦など)や傾眠、嚥下障害などの副作用が報告されており、投与開始後しばらく経ってから出現することもある。


安全な継続投与のためには、以下の定期的な観察が重要:


歩行機能の評価(診察室内での歩行観察など)


嚥下状態(むせ、食事量の変化など)


睡眠・覚醒リズムの変化


■ 歩行解析研究の補足


モフバンド®による歩行解析から、股関節の伸展角の低下(4°以下)が車椅子依存のリスクと有意に関連。



■ 臨床での活用ポイント


効果が出るまで焦らず見守ることが必要。


副作用は遅れて出ることもあるため、効果が見られた後も慎重な観察が必要。


患者個々の状態(活動性、生活状況)に応じて柔軟に用量を調整することが望ましい。


2024年12月28日土曜日

神奈川県中小企業診断士協会登録グループ 医療介護経営研究会での講演の概要

2024年12月26日 代表が講演しました。

 
講演テーマ

「認知症と労務管理、ビジネスとの関わり」

  • 背景: 認知症患者数が増加する中、企業経営者や診断士が知っておくべき情報を解説。

1. 講演内容

認知症の定義と分類

  • 認知症とは:
    • 特定の病名ではなく、中枢神経系の障害により日常生活に支障をきたす状態の総称。
  • 主な分類:
    • 変性疾患: アルツハイマー型、レビー小体型など。
    • 血管性認知症、感染症、外傷、腫瘍、栄養障害など。

アルツハイマー型認知症の病態

  • 脳の変化:
    • 海馬を中心とした脳の萎縮、アミロイドβ蛋白の蓄積、タウ蛋白の異常。
  • 初発症状:
    • 記憶障害、道に迷う、計画が立てられないなど。
  • 進行:
    • 側頭葉から頭頂葉、前頭葉へと病変が広がり、認知機能障害が悪化。

認知症の早期診断

  • 診断方法:
    • 認知機能検査(MMSE等)、脳画像診断(MRI、脳血流SPECT)、血液・遺伝子検査。
  • 早期診断の重要性:
    • 治療介入のタイミングを逃さない。
    • 患者と家族の生活設計に役立つ。

治療方法

  • 薬物療法:
    • アセチルコリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジルなど)。
    • NMDA受容体拮抗薬(メマンチン)。
    • 新薬(レカネマブ、ドナネマブ)の紹介と効果・課題。
  • 非薬物療法:
    • 認知トレーニング、リハビリ、生活習慣の改善。

認知症患者の介護

  • 介護の基本:
    • できることを継続し、できないことはサポート。
    • 危険なことは避ける工夫。
  • 介護保険サービスの利用:
    • 在宅介護支援、デイサービス、訪問看護などを活用。
  • 終末期対応:
    • 緩和医療(苦痛軽減)やアドバンス・ケア・プランニング。

問題行動(BPSD)

  • 主な症状:
    • 幻覚、妄想、攻撃性、徘徊、不眠など。
  • 原因:
    • 身体的不調、不適切なケア、環境要因、ストレス。
  • 対応策:
    • 環境調整、家族間の役割分担。
    • 必要に応じて精神科治療の併用。

2. 認知症とビジネスの接点

  • 仕事と介護の両立支援:
    • 経営者向けガイドラインを紹介。
    • 労働力維持と介護負担軽減の両立。
  • 企業の対応策:
    • 介護休暇制度の整備。
    • 従業員向け介護セミナーの実施。

3. 認知症予防の重要性

  • 予防のカギ:
    • 適度な運動、バランスの取れた食事、質の良い睡眠。
  • 生活習慣病の管理:
    • 脳トレや対人交流で孤独を避ける。
  • 予防に関する研究:
    • FINGER STUDY: 運動、栄養、頭の体操が認知機能低下を遅らせる効果。

4. まとめ

  • 認知症患者の増加に伴い、企業や社会全体での対応が必要。
  • 中年期からの予防が重要で、日常生活でできる工夫を紹介。
  • アルツハイマー型認知症の早期診断と治療の重要性を再確認。

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