2024年12月28日土曜日

神奈川県中小企業診断士協会登録グループ 医療介護経営研究会での講演の概要

2024年12月26日 代表が講演しました。

 
講演テーマ

「認知症と労務管理、ビジネスとの関わり」

  • 背景: 認知症患者数が増加する中、企業経営者や診断士が知っておくべき情報を解説。

1. 講演内容

認知症の定義と分類

  • 認知症とは:
    • 特定の病名ではなく、中枢神経系の障害により日常生活に支障をきたす状態の総称。
  • 主な分類:
    • 変性疾患: アルツハイマー型、レビー小体型など。
    • 血管性認知症、感染症、外傷、腫瘍、栄養障害など。

アルツハイマー型認知症の病態

  • 脳の変化:
    • 海馬を中心とした脳の萎縮、アミロイドβ蛋白の蓄積、タウ蛋白の異常。
  • 初発症状:
    • 記憶障害、道に迷う、計画が立てられないなど。
  • 進行:
    • 側頭葉から頭頂葉、前頭葉へと病変が広がり、認知機能障害が悪化。

認知症の早期診断

  • 診断方法:
    • 認知機能検査(MMSE等)、脳画像診断(MRI、脳血流SPECT)、血液・遺伝子検査。
  • 早期診断の重要性:
    • 治療介入のタイミングを逃さない。
    • 患者と家族の生活設計に役立つ。

治療方法

  • 薬物療法:
    • アセチルコリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジルなど)。
    • NMDA受容体拮抗薬(メマンチン)。
    • 新薬(レカネマブ、ドナネマブ)の紹介と効果・課題。
  • 非薬物療法:
    • 認知トレーニング、リハビリ、生活習慣の改善。

認知症患者の介護

  • 介護の基本:
    • できることを継続し、できないことはサポート。
    • 危険なことは避ける工夫。
  • 介護保険サービスの利用:
    • 在宅介護支援、デイサービス、訪問看護などを活用。
  • 終末期対応:
    • 緩和医療(苦痛軽減)やアドバンス・ケア・プランニング。

問題行動(BPSD)

  • 主な症状:
    • 幻覚、妄想、攻撃性、徘徊、不眠など。
  • 原因:
    • 身体的不調、不適切なケア、環境要因、ストレス。
  • 対応策:
    • 環境調整、家族間の役割分担。
    • 必要に応じて精神科治療の併用。

2. 認知症とビジネスの接点

  • 仕事と介護の両立支援:
    • 経営者向けガイドラインを紹介。
    • 労働力維持と介護負担軽減の両立。
  • 企業の対応策:
    • 介護休暇制度の整備。
    • 従業員向け介護セミナーの実施。

3. 認知症予防の重要性

  • 予防のカギ:
    • 適度な運動、バランスの取れた食事、質の良い睡眠。
  • 生活習慣病の管理:
    • 脳トレや対人交流で孤独を避ける。
  • 予防に関する研究:
    • FINGER STUDY: 運動、栄養、頭の体操が認知機能低下を遅らせる効果。

4. まとめ

  • 認知症患者の増加に伴い、企業や社会全体での対応が必要。
  • 中年期からの予防が重要で、日常生活でできる工夫を紹介。
  • アルツハイマー型認知症の早期診断と治療の重要性を再確認。

2024年12月6日金曜日

精神科領域の性差医療 認知症高齢者を中心に

 横浜市と、(公財)木原記念横浜生命科学振興財団との共催で行われた講演会、「ジェンダード・イノベーションが社会を変える ~未来を変えるこれからのイノベーション~」で講演をさせていただきました。

 以下、私の講演のまとめとなります。 

 なお、講演でもお話しましたが、男女で分けてデータを提示してお話しましたが、重なりあう部分もかなり多いです。群間としては、統計的に差があったり、特徴があっても、それを個別の事例に当てはめて検討する場合は、当然ながら個別の事情を勘案する必要があります。男女で、わかりやすく物事が分かれるものではないことをご承知おきください。


脳の性差

  • 性分化: Y染色体の有無で性別が決定され、テストステロンの影響で脳が性別に応じて分化。
  • 脳の構造的性差: 男性・女性それぞれ特有の特徴があるが、個人レベルではモザイク状に性別の特徴が混在。
  • 認知機能の性差: 言語的記憶は女性が優位、しかし個体差が大きい。
  • ネットワークの違い: 認知課題時に活性化する脳領域が性別で異なる。

認知機能の性差

  • 女性は男性に比べ言語記憶能力が高いが、重なりが大きい。
  • 高齢者において、認知症リスク要因が性別で異なる。
    • アルツハイマー型認知症: 女性が長寿であるためリスクが高い。(男性は、生活習慣病などの影響で、がん、心臓病、脳卒中の割合が多く、死亡率も高い。女性の痩せている方がよい、という社会的な観念が、生活習慣病の発症を抑えていること、などが複合的に寿命に影響しているかもしれない。)
    • 血管性認知症: 年齢により男性・女性で発症率が逆転。
    • レビー小体型認知症: 男性に多い。

心理の性差

  • ストレスと悩み: 女性が男性よりストレスを感じやすい。
  • ホルモンの影響: ホルモン変化がうつ病発症率に影響。
  • 環境的要因: 女性は小児期の逆境体験や成人後の対人暴力を経験しやすい。
  • 反芻傾向: 女性に多く見られる。

ジェンダーによる性差(高齢者認知症分野)

  • 身体的特徴:
    • 男性: メタボリックシンドローム関連疾患が多い。
    • 女性: 精神的・身体的フレイル、ロコモティブシンドロームが多い。
  • 精神疾患:
    • うつ病や認知症の性差。
    • 自殺: 男性の遂行率が高いが、女性は試みる回数が多い。

Well-beingへの提言

  • 自助:
    • 主観的幸福感とマインドフルネスが重要。
    • マインドフルネス特性は女性で高い傾向。
  • 互助:
    • 社会参加や対人関係の質が認知機能維持に寄与。
    • 男性は役割・社会参加の両方がうつの抑制に重要。女性はどちらか一方でうつの抑制効果がある。(役割については、アンケートで聴取。自治体の会長、会計係など、とのことで、幅があるものと考えられます。)
  • 支援の重要性: 性別に応じた支援がウェルビーイング向上に寄与。

まとめ

  • 性差は生物学的、心理的、社会的要因から成り立ち、高齢者の認知症やうつ病に影響。
  • 性別ごとに異なる健康支援を提供する必要性が強調される。
  • 性差に配慮したウェルビーイング向上が疾病予防の観点から重要。

2024年11月11日月曜日

アルコールと認知症について

アルコールと認知症について、臨床現場では、注目する必要のあることが多くなってきました。

アルコール性の認知症については、あまりわかっていないことも多く、講演依頼がありまして、何度かお話する機会がありました。今回は、アルコールと認知症についての、要点をまとめておきます。


1. アルコールと認知症の関係

アルコールが認知症に与える影響については、近年多くの研究が進められています。アルコールの中枢神経に対する作用を中心に、依存症やリスク、認知症発症のメカニズムについて説明します。アルコール依存症患者の高齢化が進む中で、認知症との関係性が注目されています。

2. アルコールの中枢神経への作用

アルコールが体内に入ると、中枢神経に作用し、その影響は体質や飲酒量により異なります。体重60kgの人が標準的な飲酒量を摂取した場合、アルコールが体内に3~4時間留まるとされます。過剰な飲酒は神経系のバランスを崩し、GABA受容体やグルタミン酸受容体の調節に影響を及ぼすことが分かっています。

3. アルコール離脱症状と治療

アルコール依存症からの離脱には、せん妄や痙攣発作などの症状が見られます。治療には、ベンゾジアゼピンなどの薬物療法が用いられますが、長期間の使用は避けられるべきです。また、治療は症状の進行度に合わせて行われ、栄養管理が重要とされています。

4. ウェルニッケ・コルサコフ症候群

ビタミンB1(チアミン)の欠乏により引き起こされるウェルニッケ脳症と、それに続くコルサコフ症候群は、重篤な認知機能障害を引き起こします。MRI検査は診断に有用ですが、臨床所見が最も重要とされます。この症候群は長期的な飲酒により発症リスクが高まり、意識障害や運動障害、健忘症が特徴です。

5. アルコール依存症と認知機能障害

アルコール依存症患者の約50~75%が何らかの認知機能障害を抱えているとされています。特に高齢者のアルコール依存症では、脳の灰白質や白質の減少が確認され、加齢に伴う脳の脆弱性が増します。慢性的なアルコール摂取は、脳の前頭葉や海馬などの重要な部位に損傷を与えることが分かっています。

6. アルコールと認知症リスクの関係

長期的な飲酒は、認知症発症リスクの増加に関連しています。Hisayama研究では、中年期から晩年にかけての持続的な喫煙と飲酒が認知症の重要なリスク因子であるとされています。また、特に前頭葉や側頭葉、扁桃体における灰白質の減少が認知機能低下と関連しています。

7. 認知症予防とアルコール摂取のガイドライン

適度な飲酒は、一定の認知症予防効果があるとされていますが、過度な摂取は認知機能低下を加速させます。厚生労働省による飲酒ガイドラインに従い、飲酒量を管理することが推奨されます。また、MIND食などの栄養管理も認知機能維持に効果があるとされています。

8. まとめ

アルコールは中枢神経に直接作用し、長期的な飲酒は認知機能障害のリスクを高めます。特に高齢者においては、認知症のリスク因子として注意が必要です。適度な飲酒と健康的なライフスタイルを維持し、アルコール性認知症の予防に努めることが重要です。

2024年4月13日土曜日

マニュアルで、終わりではない。

暗黙知の形式知化

 私が医者になり始めたころから、ガイドラインという言葉をよく聞くようになりました。エビデンスに基づいた医療、Evidenced based medicineに基づいて、エビデンスに基づいた標準治療が確立されていきます。直感や経験ではだめだ、ということで、疾患ごとに、ガイドラインを多くの学会が発行していきました。現代では、ガイドラインに基づく標準治療に則って診療を行うことは必須と言えます。

 また、病院の機能評価、ということも多く経験しました。病院が確立した手順に則って診療を行うことが、医療事故などを防ぐ、というエビデンスもあり、病院のカルテ記載、処置の手順、トラブル発生時のフローなど、マニュアルをいくつも整備していきました。今や、マニュアルが置いてない病院などないでしょう。どんな手続きにもマニュアルがあります。

 一方で、マニュアルだらけで、マニュアルを探すのが大変、ということもよく発生していました。安全管理の回診では、マニュアルの場所を聞く、というのがありますね。場所を覚えておかなくてはなりませんが、どこか本末転倒というか、非効率だなと感じることがありました。

 さて、私が、診断士になって、勉強したことで、生産管理というのがありました。業務の改善が大事な狙いなのです。だれかだけができる技術を、だれでもできる技術に変えていくためには、業務を分析して、標準化して、マニュアル化していきます。そして、業務を効率化して、平準化することで、無駄の少ないフローが出来上がってきます。マニュアルは、教育の効果もあるので、とても大切です。

 マニュアルというのは、誰かの頭の中だけにある知識(暗黙知)ではなく、だれでも理解することができる知識(形式知)です。図や文章にすることで、飛躍的に情報はいきわたるようになります。本や、インターネット上にある知識というのは、ほとんど形式知ですね。

 診断士試験では、暗黙知を形式知化する、というのは、セオリーなので、ガイドラインやマニュアルを整備していくのは、大事なことなんだなと思います。ここは、間違いない。そして、いまやAIが形式知を学習して、Chat-GPTが簡単に答えを出してくれるようになりました。聞けばなんでも教えてくれます。

形式知の暗黙知化

 こうして、膨大に知識が共有されるようになりましたが、デメリットも生まれてきているといわれています。診断士試験で有名な、SECIモデルを提唱した野中郁二郎先生が、情報過多によるデメリットは、①過剰分析、②過剰計画、そして、③過剰コンプライアンスと言っています。

 文章にすると、物事の質的な、重大さが伝わりにくくなります。例えば、マニュアルを見せられても、どこを読めばよいのかが、わからない。というのは、よくあると思います。同じ知識でも、書いた人が一番よくわかっている。これは、書いた人には、暗黙知があって、実践があって、経験があって、塩梅を知っているということですね。

 マニュアルに書いてあることも、すぐにマニュアル通りにできるようにはなりません。マニュアルをもとに、実践を通して、その人なりの暗黙知の経験を蓄積していかなければなりません。そうした暗黙知がなく形式知だけで、物事に取り組もうとすると、情報に振り回されて、結果として、①過剰分析、②過剰計画、そして、③過剰コンプライアンスの問題がでてきますね。

 わかって気になってしまう。というのが、罠だと思います。形式知だけでは、わからないことがあります。形式知を得て、それを実践して、暗黙知を蓄積していく。これがあるかどうかで、物事を達成していく、実現していく。または、地に足のついた行動をとることができていくでしょう。もちろん、形式知がだめだと言っているわけではありません。暗黙知の形式知化、形式知の暗黙知化のサイクルを持っていること、サイクルがあるということを認識することが重要ということです。


まとめ

 これからの未来は、AIがもっと価値を持っていくでしょう。答えを知っているのは、AIかもしれません。でも、答えを実際に見に行くことができるのは、人間だと思います。そのためには、試行錯誤が必要で、無駄な作業も必要かもしれません。形式知も、暗黙知も、バランスの取れた形にしていくことが重要だと考えられます。

2024年1月2日火曜日

YUAD3周年

YUADは、3周年になりました。
おかげさまで、コンサルの件数は順調に伸びており、2023年も、無事に売り上げは成長しました。代表の中小企業診断士登録が済みまして、2024年は、さらに活動の幅を広げたいと思っております。

 さて、認知症の業界では、2023年の年末にビッグニュースがありました。エーザイ株式会社から、発症予防薬、抗アミロイド抗体のレケンビ(レカネマブ)が発売となりました。実際の使用にはハードルがありますが、ここから、認知症の診療は変化が出てくると考えられます。
 基本的に、認知症は、老化の過程で起こってくるある程度自然な現象だと感じることが多いですが、とはいえ、病気としての側面も無視はできません。認知症のために、マクロ的な経済的、人的な負担は大きいですし、ミクロ的にも、その人の尊厳を考えると、自分事として対策は必要であると考えてしまいます。発症の予防薬はこれからも、開発が進むでしょう。老いることの意味が、改めて見直されるときが来たと思います。自分ごととして考えたり、ご家族と、老いについてはなしあったりという、そして、人生をどうしていくか、という人生会議がますます重要になっていくと考えられます。

 最近の統計で、アメリカのZ世代が何を一番重視しているか、というアンケートの結果がでていました。圧倒的に、メンタルヘルスだそうです。医学部受験の試験にディベートがあったのですが、「病気があっても、人は幸せでいられるか?」というテーマがお題でした。私は、精神科医になりたいと思って受験していたので、メンタルへするの重要性を熱心に話した覚えがあります。現在、コロナや、インターネットなど、世の中が大きく変わっていくなかで、メンタルをよく保つことの重要性がこれからさらに注目されていくでしょう。一方で、コロナ禍や人材難で、メンタル不調を持っている人も、就労はしやすくなっているという統計もあります。ともに生きるという視点を、企業も持つように変わってきています。2024年は、障がい者総合支援法が改正されます。企業にとっても、合理的配慮という義務が課されるようになってきます。

 老年期も、若い世代でも、医療ビジネスは、共生と予防のバランスが大事になってくるなと思うわけです。さらに、倫理観と経済性というバランスも大事になります。ヘルスケア・メディカルというのは、こうした多くの事への配慮をこなしていく必要のある分野です。専門性を求められますし、常に勉強も求められます。診療報酬・介護報酬の改定や、新しい技術や、多くのヘルステックの出現など、外部環境の変化が著しいです。企業さんとの話し合いでは、多くの社長さんが、熱心に課題に取り組まれているのを目にします。岩盤規制の、難しい領域であると思いますが、その課題に向き合うことで、少しでも健康が維持され、Well-beingが保たれるというのは、大事な活動であると思っております。

 YUADは、2024年も引き続き、病院・地域・社会がより健康であるために伴走していきたいと考えております。

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