2025年9月2日、旭川で「眠りが支える脳の健康 ― 認知症と神経免疫の観点から ―」と題した講演を行いました。ここではその要点を簡潔に振り返ります。
睡眠と脳の健康
睡眠は単なる休養ではなく、脳の可塑性や老廃物の排出(グリンパティックシステム)を支える重要な営みです。特に深いノンレム睡眠やレム睡眠は、認知機能や記憶固定に密接に関わっており、短時間睡眠や質の低下は認知症発症リスクを高めることが示されています。
認知症と睡眠障害
アルツハイマー病やレビー小体型認知症では、多彩な睡眠異常が出現します。これらは単なる随伴症状ではなく、病態の進行や予兆と関連することが分かってきています。治療の一つとしてオレキシン受容体拮抗薬が注目され、ガイドラインにも記載されるようになりました。
神経免疫と炎症の役割
認知症発症の背景には、脳内外の慢性炎症が関与しています。
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IL-6Rはある条件下で発症リスクを低下させる可能性があり、
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MMP-9は血液脳関門の障害やグリンパティック機能低下を介し、神経変性の進行を促すことが示唆されました。
特にApoE4保有者では、炎症促進的な免疫調整不全や睡眠の質の低下が重なり、神経変性リスクが高まる悪循環に陥る可能性があります。
予防への展望
J-MINT prime Kanagawa研究やFitbit解析から、日々の活動量の増加が深い睡眠を改善し、認知症予防に寄与する可能性が見えてきました。Lancet委員会の最新報告でも、認知症の45%は予防可能とされています。今後は、炎症や睡眠障害を標的とした介入が重要になると考えられます。
📝 本講演では、**「睡眠 × 認知症 × 神経免疫」**の観点から、研究成果と臨床実践を交えながら議論しました。YUADとしても、引き続き睡眠の質向上と認知症予防の橋渡し研究を進めていきたいと思います。