2025年6月12日木曜日

抑うつ症状を呈する認知症患者の治療経験と考察を講演しました

 4月25日

kowa web seminerにて講演しました。

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主な内容


1. 認知症とうつ病の関連


認知症患者における大うつ病性障害の診断率は約15%前後。


認知症の進行度によるうつ病発症率に大きな差はないが、進行により評価は困難に。



2. アルコールとうつ病の合併


アルコール使用障害者におけるうつ病有病率は約41.6%。


多くは「うつ病後発型(アルコールが引き金)」。


女性は「うつ病先行型」が多い。



3. 症例報告(詳細は控えます)


4. アルコールによる神経伝達物質の影響


セロトニン・ドーパミン・ノルアドレナリンの枯渇 → 抑うつ症状。


HPA軸の過剰活性化 → コルチゾール増加 → 海馬萎縮 → うつ悪化。


GABAとグルタミン酸のアンバランス → 離脱時の不安・抑うつ。


アセチルコリン受容体の変化 → 断酒後の過活動 → 抑うつ悪化の可能性。



5. アルコール性認知症の特徴


前頭葉・海馬・小脳が障害され、記憶や意欲、感情制御に影響。


ウェルニッケ・コルサコフ症候群などと関連。


社会的要因(孤立、家庭問題など)も抑うつを増悪。



6. アセチルコリン仮説


一般的なうつ病ではアセチルコリン過活動が原因とされることがある。


しかしアルコール性認知症では逆にアセチルコリンが低下 → 抑うつ・無気力が顕著。



7. 治療的示唆


認知症のうつには**アセチルコリンエステラーゼ阻害薬(例:アリドネ)**が有効な場合がある。


SSRIはアパシーを悪化させる可能性があるため注意。


症例ごとに柔軟な薬物選択が必要。



2025年6月3日火曜日

神奈川県レキサルティ適応追加記念講演会

 認知症の行動・心理症状に対するブレクスピプラゾール(レキサルティ)の使用方法について、ディスカッションしました。


■ 背景・目的


アルツハイマー型認知症(AD)に伴うアジテーション(焦燥感、易刺激性、興奮)に対し、ブレクスピプラゾールの適応が追加された。有効性と安全性、及び使用に関する印象をディスカッションした。


■ 有効性


無作為化二重盲検試験(BRIDGE試験)や14週の継続試験において、CGI-SスコアおよびCMAIスコアの有意な改善が確認された。


効果は比較的ゆっくりと発現し、長期に持続する印象がある。


■ 安全性と注意点


錐体外路症状(歩行障害、筋固縮、振戦など)や傾眠、嚥下障害などの副作用が報告されており、投与開始後しばらく経ってから出現することもある。


安全な継続投与のためには、以下の定期的な観察が重要:


歩行機能の評価(診察室内での歩行観察など)


嚥下状態(むせ、食事量の変化など)


睡眠・覚醒リズムの変化


■ 歩行解析研究の補足


モフバンド®による歩行解析から、股関節の伸展角の低下(4°以下)が車椅子依存のリスクと有意に関連。



■ 臨床での活用ポイント


効果が出るまで焦らず見守ることが必要。


副作用は遅れて出ることもあるため、効果が見られた後も慎重な観察が必要。


患者個々の状態(活動性、生活状況)に応じて柔軟に用量を調整することが望ましい。


2024年12月28日土曜日

神奈川県中小企業診断士協会登録グループ 医療介護経営研究会での講演の概要

2024年12月26日 代表が講演しました。

 
講演テーマ

「認知症と労務管理、ビジネスとの関わり」

  • 背景: 認知症患者数が増加する中、企業経営者や診断士が知っておくべき情報を解説。

1. 講演内容

認知症の定義と分類

  • 認知症とは:
    • 特定の病名ではなく、中枢神経系の障害により日常生活に支障をきたす状態の総称。
  • 主な分類:
    • 変性疾患: アルツハイマー型、レビー小体型など。
    • 血管性認知症、感染症、外傷、腫瘍、栄養障害など。

アルツハイマー型認知症の病態

  • 脳の変化:
    • 海馬を中心とした脳の萎縮、アミロイドβ蛋白の蓄積、タウ蛋白の異常。
  • 初発症状:
    • 記憶障害、道に迷う、計画が立てられないなど。
  • 進行:
    • 側頭葉から頭頂葉、前頭葉へと病変が広がり、認知機能障害が悪化。

認知症の早期診断

  • 診断方法:
    • 認知機能検査(MMSE等)、脳画像診断(MRI、脳血流SPECT)、血液・遺伝子検査。
  • 早期診断の重要性:
    • 治療介入のタイミングを逃さない。
    • 患者と家族の生活設計に役立つ。

治療方法

  • 薬物療法:
    • アセチルコリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジルなど)。
    • NMDA受容体拮抗薬(メマンチン)。
    • 新薬(レカネマブ、ドナネマブ)の紹介と効果・課題。
  • 非薬物療法:
    • 認知トレーニング、リハビリ、生活習慣の改善。

認知症患者の介護

  • 介護の基本:
    • できることを継続し、できないことはサポート。
    • 危険なことは避ける工夫。
  • 介護保険サービスの利用:
    • 在宅介護支援、デイサービス、訪問看護などを活用。
  • 終末期対応:
    • 緩和医療(苦痛軽減)やアドバンス・ケア・プランニング。

問題行動(BPSD)

  • 主な症状:
    • 幻覚、妄想、攻撃性、徘徊、不眠など。
  • 原因:
    • 身体的不調、不適切なケア、環境要因、ストレス。
  • 対応策:
    • 環境調整、家族間の役割分担。
    • 必要に応じて精神科治療の併用。

2. 認知症とビジネスの接点

  • 仕事と介護の両立支援:
    • 経営者向けガイドラインを紹介。
    • 労働力維持と介護負担軽減の両立。
  • 企業の対応策:
    • 介護休暇制度の整備。
    • 従業員向け介護セミナーの実施。

3. 認知症予防の重要性

  • 予防のカギ:
    • 適度な運動、バランスの取れた食事、質の良い睡眠。
  • 生活習慣病の管理:
    • 脳トレや対人交流で孤独を避ける。
  • 予防に関する研究:
    • FINGER STUDY: 運動、栄養、頭の体操が認知機能低下を遅らせる効果。

4. まとめ

  • 認知症患者の増加に伴い、企業や社会全体での対応が必要。
  • 中年期からの予防が重要で、日常生活でできる工夫を紹介。
  • アルツハイマー型認知症の早期診断と治療の重要性を再確認。

2024年12月6日金曜日

精神科領域の性差医療 認知症高齢者を中心に

 横浜市と、(公財)木原記念横浜生命科学振興財団との共催で行われた講演会、「ジェンダード・イノベーションが社会を変える ~未来を変えるこれからのイノベーション~」で講演をさせていただきました。

 以下、私の講演のまとめとなります。 

 なお、講演でもお話しましたが、男女で分けてデータを提示してお話しましたが、重なりあう部分もかなり多いです。群間としては、統計的に差があったり、特徴があっても、それを個別の事例に当てはめて検討する場合は、当然ながら個別の事情を勘案する必要があります。男女で、わかりやすく物事が分かれるものではないことをご承知おきください。


脳の性差

  • 性分化: Y染色体の有無で性別が決定され、テストステロンの影響で脳が性別に応じて分化。
  • 脳の構造的性差: 男性・女性それぞれ特有の特徴があるが、個人レベルではモザイク状に性別の特徴が混在。
  • 認知機能の性差: 言語的記憶は女性が優位、しかし個体差が大きい。
  • ネットワークの違い: 認知課題時に活性化する脳領域が性別で異なる。

認知機能の性差

  • 女性は男性に比べ言語記憶能力が高いが、重なりが大きい。
  • 高齢者において、認知症リスク要因が性別で異なる。
    • アルツハイマー型認知症: 女性が長寿であるためリスクが高い。(男性は、生活習慣病などの影響で、がん、心臓病、脳卒中の割合が多く、死亡率も高い。女性の痩せている方がよい、という社会的な観念が、生活習慣病の発症を抑えていること、などが複合的に寿命に影響しているかもしれない。)
    • 血管性認知症: 年齢により男性・女性で発症率が逆転。
    • レビー小体型認知症: 男性に多い。

心理の性差

  • ストレスと悩み: 女性が男性よりストレスを感じやすい。
  • ホルモンの影響: ホルモン変化がうつ病発症率に影響。
  • 環境的要因: 女性は小児期の逆境体験や成人後の対人暴力を経験しやすい。
  • 反芻傾向: 女性に多く見られる。

ジェンダーによる性差(高齢者認知症分野)

  • 身体的特徴:
    • 男性: メタボリックシンドローム関連疾患が多い。
    • 女性: 精神的・身体的フレイル、ロコモティブシンドロームが多い。
  • 精神疾患:
    • うつ病や認知症の性差。
    • 自殺: 男性の遂行率が高いが、女性は試みる回数が多い。

Well-beingへの提言

  • 自助:
    • 主観的幸福感とマインドフルネスが重要。
    • マインドフルネス特性は女性で高い傾向。
  • 互助:
    • 社会参加や対人関係の質が認知機能維持に寄与。
    • 男性は役割・社会参加の両方がうつの抑制に重要。女性はどちらか一方でうつの抑制効果がある。(役割については、アンケートで聴取。自治体の会長、会計係など、とのことで、幅があるものと考えられます。)
  • 支援の重要性: 性別に応じた支援がウェルビーイング向上に寄与。

まとめ

  • 性差は生物学的、心理的、社会的要因から成り立ち、高齢者の認知症やうつ病に影響。
  • 性別ごとに異なる健康支援を提供する必要性が強調される。
  • 性差に配慮したウェルビーイング向上が疾病予防の観点から重要。

2024年11月11日月曜日

アルコールと認知症について

アルコールと認知症について、臨床現場では、注目する必要のあることが多くなってきました。

アルコール性の認知症については、あまりわかっていないことも多く、講演依頼がありまして、何度かお話する機会がありました。今回は、アルコールと認知症についての、要点をまとめておきます。


1. アルコールと認知症の関係

アルコールが認知症に与える影響については、近年多くの研究が進められています。アルコールの中枢神経に対する作用を中心に、依存症やリスク、認知症発症のメカニズムについて説明します。アルコール依存症患者の高齢化が進む中で、認知症との関係性が注目されています。

2. アルコールの中枢神経への作用

アルコールが体内に入ると、中枢神経に作用し、その影響は体質や飲酒量により異なります。体重60kgの人が標準的な飲酒量を摂取した場合、アルコールが体内に3~4時間留まるとされます。過剰な飲酒は神経系のバランスを崩し、GABA受容体やグルタミン酸受容体の調節に影響を及ぼすことが分かっています。

3. アルコール離脱症状と治療

アルコール依存症からの離脱には、せん妄や痙攣発作などの症状が見られます。治療には、ベンゾジアゼピンなどの薬物療法が用いられますが、長期間の使用は避けられるべきです。また、治療は症状の進行度に合わせて行われ、栄養管理が重要とされています。

4. ウェルニッケ・コルサコフ症候群

ビタミンB1(チアミン)の欠乏により引き起こされるウェルニッケ脳症と、それに続くコルサコフ症候群は、重篤な認知機能障害を引き起こします。MRI検査は診断に有用ですが、臨床所見が最も重要とされます。この症候群は長期的な飲酒により発症リスクが高まり、意識障害や運動障害、健忘症が特徴です。

5. アルコール依存症と認知機能障害

アルコール依存症患者の約50~75%が何らかの認知機能障害を抱えているとされています。特に高齢者のアルコール依存症では、脳の灰白質や白質の減少が確認され、加齢に伴う脳の脆弱性が増します。慢性的なアルコール摂取は、脳の前頭葉や海馬などの重要な部位に損傷を与えることが分かっています。

6. アルコールと認知症リスクの関係

長期的な飲酒は、認知症発症リスクの増加に関連しています。Hisayama研究では、中年期から晩年にかけての持続的な喫煙と飲酒が認知症の重要なリスク因子であるとされています。また、特に前頭葉や側頭葉、扁桃体における灰白質の減少が認知機能低下と関連しています。

7. 認知症予防とアルコール摂取のガイドライン

適度な飲酒は、一定の認知症予防効果があるとされていますが、過度な摂取は認知機能低下を加速させます。厚生労働省による飲酒ガイドラインに従い、飲酒量を管理することが推奨されます。また、MIND食などの栄養管理も認知機能維持に効果があるとされています。

8. まとめ

アルコールは中枢神経に直接作用し、長期的な飲酒は認知機能障害のリスクを高めます。特に高齢者においては、認知症のリスク因子として注意が必要です。適度な飲酒と健康的なライフスタイルを維持し、アルコール性認知症の予防に努めることが重要です。

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